
ここは料理人なら誰もがあこがれる場所なんです。伊勢海老、鮑、松阪牛をはじめとする海の幸と山の幸がふんだんにあって、まさに腕の見せ所、腕のふるい甲斐があります。近年はそれらの食材が三重ブランドとして認定され、一層その感を強くしますね。私は三重県に生まれて育ち、この地で食の仕事に就いて30年以上経ちますが、そういった意味でもここで仕事ができるのは本当に恵まれていると思っていますよ。料理はまず何よりも、素晴らしい食材があってこそですから。最近も出会ったんです。「脱皮伊勢海老」という食材に。創作意欲を刺激してくれますねぇ。それをメインに美味しい料理を提供するため、脇役である前後のメニューを含めて最も効果的な料理法は何だろうかと考えます。料理はそこで使う食材をトータルでお届けするものですから。ほんと新しい食材との出会いはいつもワクワクします。
合歓の郷には食事ができる場所が7箇所あります。私はそのすべてを統括していますが、いつもスタッフに言っているんです。それぞれのレストランには、そこにふさわしい料理やもてなし方があると。だからメニュー開発は各レストランの責任者と納得がいくまで話し合いますね。そこにお越しいただくそれぞれのお客様が思い描く、期待に応えられないと意味がないですから。また、常に意識するのは旬。素材の仕入れから調理法まで、その時々にふさわしい最適のかたちで提供することを心がけています。そして何よりも、私たちは食という命に関わる大切な仕事をしているということを常に意識するよう、スタッフ全員に常に厳しく言い聞かせています。
以前、金婚式を迎えられた80歳過ぎのご夫婦にお料理をお出ししたことがあるんです。旦那様がご病気で食が細くなっていらしたのですが、お二人で最後まで同じものを召し上がりたいとのご希望でした。そこで旦那様へは、料理内容を変更せず、量を少なめにしてお出ししました。、すべての料理を食べ終わってから私が呼ばれ、「本当にありがとう」と手を握りしめてお礼をいただきました。うっすらと涙を浮かべて。そのとき私は感じました。「おいしかった」ではなく「ありがとう」と言われることの意味を。料理だけではないんですね、充実した時間を過ごせたことへの喜びとでもいうのでしょうか。本当によかったと思っていただいた時、「ありがとう」と言っていただけることをそのとき知りました。
私にとって料理は挑戦です。だから、常に創作料理をメニューに加えています。そこにあるのは私のプロ意識、こだわりと言えるかもしれません。食材と常に真剣に向き合い、腕に自信を持って作っていますから。その評価は、お客様からすぐ返ってきますが、。やらずに後悔はするのは嫌いですからね。伝統をしっかりと押さえた上で、新たな喜びを見つけ出すことのできる創作料理を味わいに、ぜひ合歓の郷へお越しください。
